「1か月で4,000万円が減ってしまった」
「月末の支払いが1億円あるのに、口座には8,000万円しかない」
こうした状況では、数字そのもの以上に、不安が人を追い詰めます。強いストレスがかかると、人は物事を冷静に整理しづらくなり、集中力や判断力が落ち、問題を実際以上に大きく感じやすくなります。心配や焦りが強まるほど、考え方が狭くなり、早く何かを決めなければならないという心理に引っ張られやすくなります。医療機関や公的機関の案内でも、ストレスや不安が強いと、集中しにくい、判断しにくい、圧倒された感覚になる、問題が大きく見える、といった反応が起こりうるとされています。
しかし、ここで慌ててしまうと、取り返しのつかない判断につながります。大切な不動産や、将来の収益源になる事業を安く売ってしまう。本来支払えたはずのボーナスをゼロにしてしまう。重要な取引先への支払いを止めてしまう。社会保険料の扱いを軽く見てしまう。いずれも、絶対にやってはいけない行為とまでは言いません。ですが、パニックの中で決めると、失敗になりやすいのです。
だからこそ、資金が急に減っているときに最初にやるべきことは、何かをすぐ決めることではありません。まず一度、落ち着いて、何が起きているのかを整理することです。
大事なのは、資金が減る原因は赤字だけではない、ということです。冷静に考えれば当たり前のことでも、強い不安の中では、すべてが一つに見えてしまいます。「お金が減っている。だから会社はもう終わりだ」と感じてしまう。しかし実際には、資金減少の理由はいくつかに分けて考えなければなりません。
資金が減る4つの原因
第一に、本業の赤字でお金が減っている場合です。売上総利益では固定費をまかなえず、毎月の営業活動そのものが現金を失わせている状態です。この場合は、できるだけ早く赤字を止めなければなりません。値決め、粗利、固定費、人員配置、稼働率など、事業構造そのものに手を入れる必要があります。
第二に、銀行返済でお金が減っている場合です。会計上は大赤字でなくても、借入返済が重ければ、現預金は確実に減っていきます。利益の問題と返済負担の問題は、本来別に見なければなりません。赤字が小さくても返済が大きければ資金は苦しくなりますし、逆に足元は赤字でも返済条件次第で時間を作れることもあります。
第三に、売上の減少や増加によって、運転資金が減る場合です。売上が落ちれば入金は減ります。一方で、売上が増えている局面でも、売掛金や在庫が先に増えることで、黒字なのに資金繰りが苦しくなることがあります。これは、利益が出ているかどうかと、現金が増えるかどうかは一致しない、という典型例です。
第四に、一時的な支払いで資金が減っただけ、という場合もあります。たとえば賞与、税金、設備投資、たまたま重なった支払いなどです。この場合、確かに一時点では資金は減りますが、それが今後も毎月続くとは限りません。一時的な流出なのか、構造的な流出なのかを分けて考えなければ、必要以上に悲観してしまいます。
原因によって打ち手がまったく違う
ここで大切なのは、原因によって打ち手がまったく違うということです。赤字が原因なら、早く手を打つ必要があります。しかし、それ以外の原因なら、少なくとも「今この瞬間に全部を売る」「重要な支払いを止める」といった判断を急ぐ必要はないかもしれません。
たとえば、現在4,000万円の資金が減って驚いているとしても、整理してみると、賞与支払いと返済が重なっただけであり、ここから先は毎月200万円ずつの減少見込みにすぎない、ということもあります。その場合、見え方は大きく変わります。4,000万円減ったという事実だけを見るのではなく、なぜ減ったのか、この先どれくらいのペースで減るのかを分けて見る。それができるだけで、社長はまず心の平静を取り戻すことができます。
経営の問題は、焦って決断することで改善するものではありません。まず現状を分けて見ることです。赤字なのか。返済負担なのか。運転資金なのか。一時的支出なのか。この整理ができて初めて、次に何をするべきかが見えてきます。
もっとも、実際に資金が減っていく局面では、落ち着いて考えること自体が簡単ではありません。そのため、多くの経営者は、強い不安の中で判断を急ぎ、かえって状況を悪化させてしまいます。
次のページでは、パニックに陥った経営者がやってしまいがちな失敗を整理します。その後、資金繰り表の作成や支払・銀行対応など、状況を立て直すための具体策を順に見ていきます。
