赤字企業の黒字構造化

赤字になったとき、社長の頭をよぎること

「今期は赤字になりました。」

経理担当者からそう言われたとき、多くの経営者の頭をよぎるのは、たいてい似たようなことです。

  • なぜ赤字になったのか。
  • いつから悪くなっていたのか。
  • 銀行や投資家には、何と説明すればよいのか。
  • 何とか黒字に見せられないものか。
  • 来期は黒字にできるのか。
  • 資金繰りは大丈夫なのか。
  • この先、会社は大丈夫なのか。

赤字になったときの苦しみは、従業員にはなかなか分からないものです。そもそも決算の内容を社員に伝えていない会社も多いでしょう。だから、赤字という経営危機を、経営者が率先して、しかも多くの場合は孤軍奮闘で解決していかなければならなくなります。

しかし、赤字企業で本当に怖いのは、赤字そのものだけではありません。社長が不安の中で、順番を間違えることです。

焦って動く。強い手を打ちたくなる。何か一つで流れを変えたくなる。けれども、赤字企業の立て直しは、そういうものではありません。

大切なのは、いま何を考えるべきか、何を後回しにするべきか、どこから手をつけるべきかを整理することです。それができれば、経営はかなり落ち着きます。

赤字企業の黒字化とは、そこから始まります。

赤字企業で、絶対にやってはいけないこと

赤字になると、社長は焦ります。そして、焦っているときほど、間違った判断をしやすくなります。

最初の段階で、以下がひとつでも頭をよぎれば、それは焦っている、または頭が真っ白になっているという危険信号です。

  • 粉飾決算をして黒字に見せる
  • 新しい事業に着手する
  • すぐに事業や土地を売却する
  • リストラを行う

典型的なのは、何とか黒字に見せようとすることです。中小企業では、赤字になったときに粉飾決算に近いことをしてしまう経営者が少なくありません。しかし、それは問題を先送りするだけで、根本解決にはなりません。銀行に対しても、後から大きな不信につながります。

次に多いのは、状況を整理しないまま、間違った方法で資金を捻出しようとすることです。本当はまだ打てる手があるのに、無理な資金調達や場当たり的な支払延期に走る。あるいは、赤字の決算書だけを何の説明もなく銀行に提出してしまう。これもよくありません。赤字を出したら銀行は一切貸してくれない、と思い込んでいる経営者もいますが、実際はそんなに単純ではありません。大事なのは、赤字であることそのものではなく、なぜ赤字になったのか、これからどう立て直すのかを説明できることです。

また、いきなり大胆なリストラをするのも危険です。もちろん、コストカットは必要です。しかし、何を削るかを見極めないまま人を減らしたり拠点を閉じたりすると、売上を支えている力まで落としてしまうことがあります。その結果、かえって立て直しが難しくなることもあります。

さらに、慌てて新しい事業に手を出すこと。これも赤字企業ではよくある誤りです。本業が苦しくなると、「これが当たれば逆転できる」という発想に引っ張られやすくなります。しかし、本業の赤字原因が整理されていないまま新規事業に手を出すと、傷口を広げることになりかねません。

ここで大事なのが、経営は確率でやるものだという考え方です。

何か一つの事業に社運を賭ける。過去に大成功した体験が頭に残っていて、もう一度あの形で逆転できると考える。こうした判断は危険です。赤字企業ほど、一発逆転を狙いたくなりますが、それは間違った方向に行きやすい。

成功している会社は、投資をするとき、利益の期待値が投資額を上回るかどうかで判断しています。うまくいく可能性がある、では足りません。成功確率と、成功したときに得られる利益を見て、その期待値が投資額を上回るかどうかで判断します。

この考え方は、赤字企業の立て直しでも同じです。コストカットは、社内で決めて実行できるため、比較的確実です。だから、最優先でやるべきです。一方、売上を増やすことは不確実です。相手があり、市場があり、景気や競争環境にも左右されます。だから、売上増加は願望で考えるのではなく、確率で設計しなければなりません。

必要な売上増加が100なら、それを一つの勝負で取りにいくのではなく、期待値で設計する。たとえば、確率20%・収益100の打ち手を5個持つ。そうすれば、全体として必要な売上増加を狙う設計になります。

つまり、黒字化に必要なのは、一発逆転ではありません。確実に効くコストカットを先に行い、売上は確率で取りにいくことです。

赤字企業で最初に必要なのは、派手なことをすることではありません。間違ったことを止め、確率の低い賭けを避け、確実な手と期待値の合う手を区別することです。

まず資金繰りを安定させ、本当のデッドラインを計算することから始める

赤字企業で、まず最初に社長がやるべきことは、このままの状態が続いたら、いつまで会社が持つのかを見極めることです。

ただし、ここで大事なのは、感覚で考えないことです。赤字になると、多くの社長は強い不安に襲われます。すると、本来見えているはずのものまで見えなくなります。

たとえば、月末に5,000万円の入金がある。一方で、同じ月末に6,000万円の支払いがある。このとき、焦っている社長は、6,000万円の支払いばかりが頭に浮かび、5,000万円の入金が見えなくなってしまうことがあります。そして、「もう今すぐ破綻してしまう」と誤解してしまう。実際には、足りないのは1,000万円です。まずは、その現実を冷静に見ることが必要です。

さらに、毎月1,000万円ずつ資金が減っているとしても、その中身を分けて見なければなりません。たとえば、その1,000万円のうち、借入返済が400万円で、実際の赤字が600万円という場合があります。このとき、資金はたしかに減っていますが、会社の事業そのものが毎月1,000万円ずつ傷んでいるわけではありません。実態としては、もう少し長く持つ可能性があります。

つまり、資金繰りを見るときには、いくら減っているかだけでは足りません。その減少の中身が何なのか。入金と支払のタイミングはどうなっているのか。返済負担はいくらあるのか。どこまでが事業の赤字で、どこまでが財務上の返済なのか。そこまで分けて見なければ、本当のデッドラインは分かりません。

ここを正しく計算できるようになると、社長はパニックから抜け出せます。「もうだめだ」と思っていた会社でも、実は打てる手が残っていることは少なくありません。銀行対応、資金調達、支払条件の見直し、不要資産の換金、コストカット。こうした打ち手を検討するためにも、まずは本当のデッドラインを冷静に把握することが必要です。

赤字企業の社長が最初にやるべきことは、利益分析より前に、資金繰りを見えるようにし、時間を計算できる状態に戻ることです。

次に、何が原因で、どのくらい損をしているのかを確かめる

資金繰りの見通しが立ったら、次にやるべきことは、何が原因で、どのくらい損をしているのかを確かめることです。

ここで大切なのは、資金が減っていることと、赤字であることを混同しないことです。中小企業では、資金繰りに追われるあまり、状況を冷静に見られなくなっていることがあります。実は営業赤字ではないのに、お金が減っていく様子だけを見て、パニックになっている会社もあります。逆に、売上はあるのに利益構造が崩れていて、本当に赤字が深くなっている会社もあります。

だから、ここでは社長の感覚ではなく、数字で見なければなりません。売上は足りているのか。粗利率は落ちていないか。固定費が重すぎないか。仕事量と人員配置は合っているか。不動産コストは見合っているか。広告費は効いているのか。そして、できれば会社全体の数字だけではなく、もう少し細かく見ます。

  • 部門別
  • 商品別
  • 取引先別
  • 案件別

そうしていくと、会社全体で見ているだけでは分からなかった赤字の入口が見えてきます。

ここで重要なのは、社長一人の勘に頼らないことです。社長は日々現場に近く、感覚として多くのことを分かっています。しかし、赤字の局面では、その感覚が不安や焦りに引っ張られやすくなります。だからこそ、客観的かつ冷静に分析する役割が必要になります。

問題の原因が分かり、しかも、それが資金的にいつまでに解決すべき問題なのかも分かれば、やるべきことはかなり明確になります。あとは、間に合うように解決していくだけです。

遊んでしまっている経費を見極める

では、赤字の原因はどのように解決していけばよいのでしょうか。

「支出よりも収入を多くすればよい。」原則としてはそのとおりです。しかし、会社が大きくなるほど、話はそんなに簡単ではありません。なぜなら、会社には減らすと売上まで減ってしまう経費があるからです。この経費を減らしてしまうと、短期的にはコストが減っても、中長期ではもっと利益が悪くなることがあります。つまり、コストカットは必要ではあるが、何でも削ればよいわけではありません。

そこで大切になるのが、遊んでしまっている経費を見極めることです。私はこれを、フル活用できていない経費と考えています。

多くの会社で、大きな経費は人件費です。次に不動産コスト。会社によっては広告費も大きくなります。メーカーであれば、原材料費や機械設備の負担が大きいこともあります。

ここで見るべきなのは、その経費が高いか安いかだけではありません。その経費が、十分に活きているかどうかです。たとえば、人はいる。しかし、その人件費に見合うだけの粗利が取れていない。店舗や事務所はある。しかし、固定費を回収できるだけの売上や付加価値が出ていない。広告費を使っている。しかし、粗利につながっていない。設備を持っている。しかし、十分に稼働していない。こうした状態は、単に経費が高いのではなく、経費が遊んでしまっている状態です。これが、赤字企業で見落とされやすい大きな問題です。

多くの経営者は、「うちに遊んでいる社員などいない」とおっしゃいます。たしかに、誰もサボっていないかもしれません。しかし一方で、すべての人員、すべての拠点、すべての設備、すべての広告費が、フルに活きている会社も多くはありません。長年赤字が続いている会社では、この傾向が特に強くなります。

だから見るべきなのは、感情ではなく、活用度です。現場を見る。数字を見る。人員の配置を見る。設備や拠点の稼働を見る。そうして、どこに遊んでしまっている経費があるのかを見極めます。

そして、原因が分かったら、それを単純に切るだけではなく、フル活用できる方法を考えることが重要です。解決策は、考えた通りにすぐ進むとは限りません。人員配置の見直しも、不採算商品のカットも、過剰になったトラックの削減も、活用できていないシステムの見直しも、実行は簡単ではありません。その人がやってくれていた仕事、商品を買ってくれていたお客様、現在のトラック台数を前提にしたドライバーのシフト、システムを前提にした業務フローやデータがあり、その人たちの心が離れないように気を付けながら実行しなければならないからです。

お金を見て残された時間のうちに実行する、効果の出やすいところを早く実行して銀行に納得してもらう、さまざまなバランスを考えながら取り組んでいかなければなりません。

このページでは、そのために必要な考え方と実務を整理していきます。

このページで扱うテーマ

このページでは、赤字企業の黒字化を、単なる節約論や売上拡大論ではなく、利益が残る構造をつくる実務として整理していきます。主に扱うテーマは、次のとおりです。

資金繰りを安定させる

赤字企業では、まず会社がいつまで持つのかを把握する必要があります。月次資金繰り表、日繰り表、借入返済、税金や賞与、大口支払、売掛金・在庫・買掛金の動きを整理し、資金の本当のデッドラインを見極めます。

赤字の原因を見抜く

売上不足なのか。粗利不足なのか。固定費過大なのか。人件費負担なのか。不動産コストや広告費、設備負担なのか。会社を分解して見ることで、赤字の原因を感覚ではなく数字で特定していきます。

遊んでしまっている経費を見極める

経費をただ減らすのではなく、フル活用できていない経費を見つけることが重要です。人件費、不動産コスト、広告費、設備などが、本当に活きているのかを見極め、利益が残る構造に組み直します。

社長の判断を整理する

  • 採用を止めるべきか。
  • リストラをするべきか。
  • 銀行へ支援要請するべきか。
  • 不採算事業からは撤退するべきか。
  • 新しい投資は断行するか止めるか。
  • 価格を変更するべきか。

こうした重大な判断を、焦らず、整理された情報にもとづいて行える状態をつくります。

黒字化とは、利益が残る構造をつくること

赤字企業の黒字化というと、すぐにコスト削減や再建策の話になりがちです。もちろん、それらは大切です。しかし、本当に必要なのは、それだけではありません。

必要なのは、社長が感覚や不安だけで経営を続ける状態をやめることです。会社がいつまで持つのか。何が原因で損をしているのか。どの経費が遊んでしまっているのか。何を守り、何を見直し、何を後回しにするのか。売上をどう確率で設計するのか。投資を期待値でどう判断するのか。これらが整理されて初めて、社長は冷静に判断できます。そして、その判断の積み重ねによって、会社は黒字化していきます。

黒字化とは、単月で偶然黒字になることではありません。一発逆転を狙うことでもありません。確実に効く手を先に打ち、不確実なものは確率と期待値で設計しながら、利益が残る構造をつくることです。

このページでは、そのために必要な考え方と実務を、順番に整理していきます。

関連コンテンツ

まずはお気軽にご相談ください

初回相談は無料です。貴社の課題をお聞かせください。

お問い合わせ・無料相談